
「ハッピーな気持ちになるもの」を描く理由 – イラストレーター maitopartaさん インタビュー
クリエイターに作品制作の裏側をお聞きする“クリエイターインタビュー”シリーズ。
今回は、鮮やかな色彩とユーモラスなキャラクターで、見る人を惹きつけるイラストレーターのmaitopartaさんが登場。独特のタッチで描かれるイラストは、どれも楽しい気持ちにさせてくれる、魅力あふれる作品ばかり。インタビューでは、イラストレーターを目指したきっかけや、影響を受けた作品、色彩のこだわり、そして手描きならではの味わいについて語っていただきました。
そして、2025年4月にはマークスとともに制作した新しい文具・雑貨コレクションが発売に。見ているだけで楽しくなり、手に取るとさらにワクワクするアイテムが揃います。カラフルな配色と遊び心あふれるモチーフが生み出す、唯一無二の魅力とは? ポップで自由な作品が生まれる源をひも解きます。
TEXT:奥村百恵 PHOTO:山口こすも
「絵を描くこと」は身近なことだった
──本日初めてmaitopartaさんのアトリエにお邪魔しましたが、棚にご自身の作品やカートゥーンのキャラクター、スヌーピーなどかわいいものがたくさん飾ってあって素敵ですね。
ありがとうございます。好きなキャラクターも多いですが、好きなアーティストの方の作品やグッズもたくさんあります。よく見るとボードゲームのイベントで購入した謎のサイコロなんかもあります(笑)。
──maitopartaさんの作品と共通した楽しさを感じさせるディスプレイで見ていて飽きないです。ちなみに飾られているキャラクターの中で大きな影響を受けたものはありますか。
具体的にどのキャラクターに影響を受けたか自覚はないのですが、子どもの頃から「カートゥーン ネットワーク」(アニメ専門チャンネル)をよく観ていて。日本のアニメと比べて終始ふざけている作品や、自由なものが好きだったんだと思います。今もカートゥーンのアニメは好きなので、おそらく影響を受けているのだと思います。
──maitopartaはフィンランド語で「牛乳ヒゲ」という意味だそうですが、フィンランドに何か特別な思いがあったり、フィンランド語の響きが好きだったり、そういうところから名前をつけられたのでしょうか。
活動をする名前を考えていたときに、強い印象を与えるものは嫌だなと思っていたんです。それでなんとなくやわらかい響きになりそうな“M=まみむめも”から始まる言葉で調べていたら「maitoparta」という言葉を見つけました。「牛乳ヒゲ」という意味はなんだかかわいいと思い、それで決めました。牛乳ヒゲのように思わず笑ってしまう、ついていたら気になる感じが自分のコンセプトと合っていると感じます。
──ということはフィンランドには……?
それがまだ行ったことがないんです(笑)。でも、フィンランドの方が作品を見てくださったときに「maitoparta!いいね!」って声をかけてくれたことがあって。それをきっかけに、その方とは仲良くなり一緒にご飯を食べに行きました。
──素敵なエピソードですね! この先お仕事でフィンランドに行かれる機会もありそうですが。
行ってみたいです!
──絵はいつ頃から描いていらっしゃるんですか?
私は一人っ子で、子どもの頃はよく絵を描いて遊んでいました。「絵を描くこと」はいつでもどこでも一人でできるので、子供の頃から身近なことだったと思います。
明るい気持ちになれる色使いが好き
──イラストレーターになろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
大学に進学する時におもしろそうな学部を探していて、友達が美大を目指していたのをきっかけに自分も美大を受けました。工芸的なことができると思ってプロダクトデザインを専攻したのですが、いざ入ってみたらペンや車などの製品のつくり方や、製図を描くのがメインでした(笑)。
──ものづくりがしたかったのに、入ったら違っていたと。
「こっち(プロダクトデザイン)じゃないな」となりました(笑)。それで陶芸部に入って、スケッチブックにつくりたいもののデザインを描いて、ボタンやアクセサリーを陶器でつくっていました。
──普段もスケッチブックに絵を描かれているそうですね。
はい。こんな感じで(スケッチブックを開きながら)描いています。すごく小さい絵なのでよく驚かれるのですが、むしろだんだん小さくなっている気がします(笑)。たまに「太い線で描いているの?」と聞かれるのですが、細いペンで小さく描いています。ただ展示するような作品は大きければ大きいほどいいので(笑)、ペインティングや木のオブジェは展示に合わせて大きいものを制作します。
──同じ絵のように見えて全部違いますが、これは何度も描いているうちにだんだん完成形に近づいていくということでしょうか?
そうですね。描いていると、「これってこういう形にも見えるな」とか「こんなふうにも見えてきたな」と、新たな発見があったりして。何回も描き直して納得いくものもあれば、最初に描いたものがよくできることもあります。
──maitopartaさんが描いたイラストの中には富士山のような山や地球などに顔や手足がついていたりしますが、どういったイメージから生まれたものなのでしょうか。
“もの”とか“人”という意識があまりないというか……「これはこういうもの」という感覚があまりないので、とにかく楽しい気持ちで描いていたら生まれました。そういうキャラクターが多いです。
──色合いもカラフルで目を引くものが多いです。イラストに色をつけていく際に何か意識していることはありますか。
「見て楽しい気持ちになるもの」とか「持ち歩くときにテンションが上がるもの」にしたいと意識して色を考えているところはあります。暗い色よりは明るい気持ちになれるような色使いが好きです。
紙に描いた絵はふと見返せる
──ポップでユーモアあふれるイラストのアイデアの源はどんなところにあるのでしょうか。
友達と会って話すと面白いエピソードが聞けるので、それがのちのち絵を描くときのヒントになったり、初めて訪れた場所で新しい発見をしたことがアイディアにつながったりすることもあります。
たとえば、これ(スケッチブックの絵を指差しながら)は韓国のソウルで見つけた石像のようなものを写真に撮って、それを描いたもの。基本的には日常の小さな発見が元になっていることが多いです。
──普段からスケッチブックにメモ描きをしたり。
スケッチブックは持ち歩くことが多いです。最近は海外に行く機会も多いので、現地の街並みや本屋や文房具店、雑貨店に行くと新しい発見があります。
──タブレットで描かれるイラストレーターの方もいらっしゃいますが、maitopartaさんは手描きの魅力をどんなところに感じていますか?
紙に描いた絵はふと見返せるのがいいですね、引っ越しのときとか。「こんな絵を描いていたんだな」と、改めて客観的に自分の絵を発見するのが面白いです。もちろんタブレットに描いても同じように見返すことはできますが、整理されすぎない紙の残り方がなんかいいなぁって。あとは、手で描く方が慣れていて描きやすいということもあります。
──先ほどイラストレーターを目指していたわけではなかったとおっしゃっていましたが、絵を描くことがお仕事になった最初のきっかけを教えていただけますか。
これといったきっかけは思いつかないのですが、初めは陶芸をメインにしていたのが少しずつ絵に関する制作が増えてきた気がします。
──SNSにもイラストをアップされていますが、DMで仕事の連絡が来ることも?
そうですね。いろいろな連絡があって、おもしろそうなプロジェクトはやりたいのでとにかくやりとりはしてみます。近々インドネシアのスターバックスコーヒーとコラボしてタンブラーが発表される予定なんですが、それも一番最初は個人のインスタアカウントからDMでメッセージが届いたので、しばらく怪しんでいました(笑)。
──maitopartaさんがマークスと最初にコラボした手帳もかわいらしいデザインですが、マークスとの最初の出会いを教えていただけますか。
2024年に表参道のMATで「maitoparta solo exhibition HAND IN HAND」という個展を開催しまして。そのときにマークスの企画担当の方が見に来てくださって、「手帳を一緒につくりませんか?」と声をかけてもらったのが最初のきっかけです。マークスの企画担当の方はInstagramで私のことを知ってくれたらしく、展示会までわざわざ足を運んでくださったのがすごくうれしかったです。
──ロフトをはじめ、国内にあるいろいろなお店に商品が置かれるのはマークスとのコラボ手帳が初めてでしたか?
初めてだと思います。これまでは原宿にあるお店だけとか、販売店舗が限られていたので、手帳がいろいろなところで買えることがすごくうれしくて、母と一緒にお店に手帳が並んでいるのを見に行きました(笑)。手帳はずっと持ち歩くものなので、使ってくれているところを想像するとうれしいです。
見るだけでハッピーな気持ちになれるものを
──今回、新たにマークスとコラボした文具や雑貨などの商品が発売になりますね。
自分でもグッズをつくることがあるんですが、実は昔から大好きな文房具をつくってみたいとぼんやり考えていたんです。ただ、自分でつくるとなるとなかなかハードルが高いので、今回マークスさんからお話をいただいて「やったー!」と心から思いました。
──今お話しされている表情からもうれしさが伝わってきます。ステッカーセットやクリアファイルなどの文具、アクリルキーホルダーやビーズストラップといった雑貨から靴下まであらゆるアイテムが発売されますが、アイテムはマークスの方と一緒に決めていったのでしょうか?
商材はマークスの方に決めていただいて、そのあとどのイラストを使うかを一緒に決めていきました。想像していなかったものを提案してくれたり、細かいパーツの色などにもこだわって考えてくださったりして、愛を感じました(笑)。ぜひ実物を見て欲しいです。
──どのようなイメージでイラストを決めていかれたのでしょうか。
ステッカーセットとマシュマロシール以外は、アイテムごとに3種類ずつ絵柄を使うことになったのですが、「これもかわいい」「こっちの絵でもつくりたい」と迷ってしまい、決めるのはすごく時間がかかりました。
発売時期が入学シーズンの春なので、“新しい友達”のようなイメージで「NEO FRIENDS(ネオ フレンズ)」というシリーズを使うことに決めました。お気に入りの文房具や雑貨って持ち歩くだけで楽しいですが、それを見た人も楽しくなるようなものをイメージしてつくりました。
──「NEO FRIENDS」が生まれたきっかけも教えていただけますか。
渋谷PARCOの個展でオリジナルアイテムのスウェットを買ってくれた香港の方がいて、台湾のアートブックフェアに出展したときにその方が「maitopartaのスウェット持っているよ」と話しかけてくれて。そこから連絡を取り合うようになり、ある日、香港での展示の依頼の連絡をくれたんです。その時に生まれたのが「NEO FRIENDS」でした。
その時はコロナ禍で、当時の香港は国際的な状況でも暗い気持ちになる出来事が多いとギャラリーの方から聞きました。それで、ハッピーな気持ちになれるものをつくろうと思って、部屋に飾れる「新しい友達」というコンセプトを思いついたんです。描いた絵を木製のオブジェにして、それを展示してもらいました。
香港での発表は初めてだったのですが「ハッピーな気持ちになれてうれしかった」といったメッセージをInstagramに書いてくれる方がいたりして、展示をして本当によかったと思いました。2021年の展示は行けなかったのですが、2023年に香港と台湾で個展をしたときに、香港のみなさんとやっとお会いすることができて。本当にいい出逢いだったなと思っています。
──「ハッピー=maitoparta」というイメージが浮かぶのは、maitopartaさんが楽しみながら絵を描いていること、そして「見た人を楽しませたい」という気持ちがイラストから伝わるからなのかなと思いました。
絵を描くのが楽しいだけじゃなく、食べるときも寝るときも友達と話すときも、とにかく何をやっていても楽しみたいという気持ちがあります。ただ、スノーボードだけはダメでした(笑)。「なんてリスクが高くて大変なスポーツなんだ……!」って(笑)。
──スノーボード……確かにリスクの高いスポーツですよね(笑)。では最後に、今後の予定を教えていただけますか。
現在、ソウルの「object」というお店で作品展「HAND IN HAND」を開催しています。ソウルでの展示が終わったら大阪と名古屋でも開催される予定なので、ぜひお越しいただけたらうれしいです。そして、マークスさんとの文具と雑貨もチェックしてみてください!
( プロフィール )

maitoparta(マイトパルタ)
maitopartaとは、フィンランド語で牛乳をゴクゴク飲んだときにできる牛乳ヒゲのこと。牛乳ヒゲのように見た人が思わず笑顔になるような、ユーモアあふれるハッピーな作品を制作している。海外での個展やコラボレーション、空間デザインなど幅広いジャンルで活躍中。
Instagram:https://www.instagram.com/maito_parta/
X:https://x.com/maitoparta_kuma